海外情報トピックス
ベトナム都市部軌道交通システムの拡大計画に関する分析
出典: PHAPLUAT, Chinhphu.vn
2024年12月12日┃ODINマーケティング&コンサルティング
1.計画の概要と戦略的目標
ベトナム政府は、ハノイ市とホーチミン市を中心とした都市鉄道(軌道交通)ネットワークの開発計画を、2035年までに完了させることを目指している。これは、国全体の輸送効率向上と経済発展を支えるための戦略的な取り組みであり、国家鉄道マスタープランとの整合性を保ちながら、近代的かつ統合的なアプローチを採用している。
背景と前提条件
1.メトロライン1の現状
○当初の予定では2018年に運行開始予定だったが、工事遅延や予算の増加により、商業運行は2024年に延期されている。
○2024年時点での試験運転は進んでおり、商業運行開始後の利用者数増加が期待されている。
2.利用者数の推定基準
○ホーチミン市の公共交通利用者のデータ。
○同規模の他国メトロシステム(バンコク、クアラルンプールなど)の初年度利用者データ。
○ベトナム政府およびホーチミン市が提示している人口統計。
既存メトロライン1号の開業までの進捗状況
□利用者数推移
2024年の商業運行開始後は、月間平均40万人程度(年500万人)と予想されている。この数字は、人口密度と都市化の進展を考慮して算出されている。
□売上高の見積もり
ホーチミン市のメトロ料金が月額1人当たり約15~30万VND(約700~1500円)と仮定した場合、初年度の総売上は35~70億円(500~1000万USD)規模になると推定される。
●目標:
○ハノイ市およびホーチミン市における大容量輸送が可能な都市鉄道・地下鉄ラインの構築。
○他都市へのネットワーク拡張を見据えた計画。
○地域連携および都市間輸送の向上。
●政策のポイント:
○新技術導入とプロジェクト管理の効率化を重視。
○柔軟かつ効率的な資金調達手段の多様化。
○公共債務の上限をGDPの80%まで引き上げる方針。
2.投資額と資金調達
●政府の方向性:
投資資金を確保するため、公共債務の上限を引き上げ、地域予算を活用したプロジェクト準備を進める。
○公共債務上限:GDPの約80%
○財政赤字:適切な範囲内で許容。
●具体的な投資額:
現時点で公式に発表された正確な総投資額は不明であるが、主要都市の鉄道建設プロジェクトの規模を考えると、
数十億ドル規模の資金が必要となることが予測される。
3.計画地域と既存ラインの延長
●対象都市:
主にハノイ市とホーチミン市が焦点であり、それぞれ都市鉄道ネットワークの拡大が進行中。
●ホーチミン市既存ラインの状況:
ホーチミン市では既存の都市鉄道ライン(メトロライン1など)の延長が計画されており、
新規ラインとの接続性を向上させることが目標。これにより市内輸送効率が大幅に改善されると期待される。
4.技術導入と協力国の選定
●既存の技術パートナー:
現在、ホーチミン市の都市鉄道システムには、日本の技術が中心的に導入されている。具体的には以下の企業が関与している。
○日立製作所: 鉄道車両およびシステムの提供。
○日本信号株式会社: 信号システムの構築。
○台湾のマイタック(神通情報): IT関連の技術支援。
●将来的な協力国:
○政府は引き続き日本との連携を重視する可能性が高いが、資金調達や技術革新の多様化を図るため、
中国、韓国、欧州(特にドイツやフランス)の技術導入も検討される可能性がある。
○日立を含む既存の日本企業との継続的な協力が期待されるが入札プロセスにおいて他国企業の競争が激化することも予想される。
5.政府方針とプロジェクト進行の課題
●政府の取り組み:
ベトナム首相は、計画のスピーディーな実施と品質の確保のため、特別な政策措置を講じるよう指示している。
これには以下が含まれる。
○入札の簡略化(指名競争入札の導入)。
○土地収用の円滑化を目指した法的枠組みの整備。
●課題:
○資金調達の課題:公共債務上限の引き上げが国際社会からの懸念を招く可能性。
○技術選定:既存の日本技術と新規導入技術の統合性確保。
○政治的安定性とプロジェクトの透明性。
6.第三者視点での考察
ベトナム当局が進める都市鉄道ネットワークの拡張は、都市化と経済成長に直結する重要な施策であるが、資金面、技術選定、国際協力のバランスが成否を左右する要因となる。特に既存の日本技術との連携は成功例として評価されており、今後も継続的な協力が求められるだろう。一方で、中国や韓国などの競争相手が市場に参入することで、価格競争や技術比較が激化する可能性がある。この点において、ベトナム政府が透明性を確保しつつ、最適な選択を行う能力が問われる。