オーディンコラム
アセアン七雄・ベトナムの産業・経済の蹶起
ベトナムGDP推移 ODIN M&C分析
2023年から2024年にかけてのベトナムの経済環境は、東南アジア地域での戦略的地位を強化する重要な局面にある。以下は、マクロ経済の動向、投資環境、政府政策、そして国際市場の影響を考慮した精確な分析である。
1.マクロ経済の概況
成長率の鈍化と回復の兆し
2023年、ベトナムのGDP成長率は4%台に留まり、例年の6%以上という高い成長基調から鈍化した。この背景には、以下の要因が挙げられる:
• 世界経済の減速による輸出需要の低迷(特にアメリカ、EU市場)。
• 中国の景気減速が、ベトナムを含む地域全体のサプライチェーンに与えた影響。
• 国内消費の伸び悩み。
しかし、2024年に向けて輸出市場の回復と国内インフラ投資の拡大が期待されており、成長率は再び5.5~6%に達すると予測されている。
2.外資誘致と製造業の移転
FDI(外国直接投資)の堅調な流入
ベトナムは引き続き外国直接投資(FDI)の主要な受け入れ先であり、2023年には230億ドル以上のFDIが承認された。特に注目されるのは次の分野:
• ハイテク製造業:サムスン、インテル、LGなどが引き続き大規模な投資を行っており、電子製品・半導体の生産能力を拡大している。
• 再生可能エネルギー:風力・太陽光プロジェクトへの資本流入が増加している。
米中貿易摩擦の影響を受け、多国籍企業が中国からの製造拠点の移転を加速させており、ベトナムはその受け皿としての役割を果たしている。
労働コストとインフラの課題
ベトナムの労働コストは依然として競争力が高いが、インフラ整備の遅れや物流コストの高さが課題として浮上している。特に主要港湾の混雑が輸出に影響を与えており、政府のインフラ投資が喫緊の課題となっている。
3.デジタル経済の進展
ICT産業の急成長
ベトナム政府は、デジタル経済をGDPの30%まで引き上げる目標を掲げており、2023~2024年もICT分野への投資が続いている。AI、ブロックチェーン、IoT(モノのインターネット)などの新興技術の採用が加速し、国際的なアウトソーシング拠点としての地位を強化している。
キャッシュレス化とフィンテックの台頭
2023年時点で、キャッシュレス決済が取引全体の15%以上を占めており、フィンテックスタートアップが市場を牽引。2024年には20%以上のシェアが見込まれている。特にVNPayやMoMoなどの電子ウォレットが普及を後押ししている。
4.再生可能エネルギーと環境政策
ベトナムは気候変動への対応として再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている。2023年、政府は石炭火力発電からの転換をさらに加速させ、太陽光と風力発電の割合を拡大する目標を掲げた。
• 太陽光発電の新規導入容量は2023年に4000MW以上。
• 国際的な資金提供(ADBや世界銀行)により、大規模な風力発電プロジェクトが進行中。
再生可能エネルギーは電力需要の急増に対応するだけでなく、国外投資家にとっても魅力的な分野となっている。
5.国内消費と小売市場
国内市場は安定した成長を維持しており、小売市場は2023年に約2500億ドル規模に達した。Eコマースの成長が特に顕著で、Shopee、Lazadaなどが地方市場にも積極展開している。都市化とインターネット普及率の上昇により、Eコマースの市場規模は2024年に3000億ドルを超えると予測される。
6.国際貿易とFTAの影響
FTAの活用
ベトナムは多国間自由貿易協定(FTA)の恩恵を最大限に活用しており、CPTPPやRCEPの加盟国としての地位が輸出の底支えとなっている。特に農産品や繊維製品の輸出は堅調であり、EUや日本へのアクセスが向上している。
輸出の課題
一方で、アメリカやEU市場の需要減退が一部産業に影響を与えている。繊維や履物などの労働集約型産業では、2023年の輸出額が前年比で減少した。
分析と背景
ICT産業はベトナムの中長期的な成長の柱として確立されつつある。特に、以下の要因が成長を支えている:
• クラウドサービスとAI技術:
クラウドベースの業務システムやAIを活用したソリューションに対する需要が急増。企業の効率化や政府のスマートシティ政策とも連動している。
• スタートアップの成長:
VinAIやAxie Infinityなど、AIやブロックチェーン分野で国際的に注目を浴びるスタートアップが登場。ホーチミン市やダナンはこのエコシステムの中心地だ。
• 政策支援:
政府の「デジタルトランスフォーメーション政策」により、ICT産業への投資が優先されている。2025年までにGDPの30%以上をデジタル経済が占める計画が成長を後押し。
ICT分野は依然として輸出指向であり、日本、アメリカ、ヨーロッパからのアウトソーシング需要が高い。労働力の質が高く、コストが低いことが競争優位性となっている。
分析と背景
ハイテク製造業はベトナムの輸出収益の中核を成している。
• 多国籍企業の存在:
サムスンはベトナムを世界最大のスマートフォン製造拠点としており、2023年には輸出額の20%以上を占める規模に成長している。
また、インテルの半導体施設は東南アジア最大級。
• 米中貿易摩擦の影響:
中国から製造拠点を移す動きが加速し、ベトナムはこの受け皿となっている。特に労働コストの競争力と地理的条件が利点だ。
• 製造業の多様化:
スマートフォンや家電製品に加え、自動車部品や医療機器など新分野への拡大も進んでいる。
ハイテク製造業の課題としては、インフラの未整備やサプライチェーンの脆弱性が挙げられる。政府のインフラ投資が重要な鍵を握る。
分析と背景
再生可能エネルギーはベトナム政府が最優先で推進する政策分野の一つであり、急速に成長している。
• 電力需要の急増:
経済成長と都市化が進む中で、電力需要が増加。これに応じて再生可能エネルギーの導入が進んでいる。
• 国際的な支援:
ADBや世界銀行などの支援を受け、風力発電や太陽光発電プロジェクトが増加。特にビントゥアン省やニントゥアン省が主要地域。
• エネルギー政策の転換:
石炭依存から脱却し、2030年までに再生可能エネルギー比率を30%に引き上げる目標が掲げられている。
エネルギー分野は引き続き成長が期待されるが、土地利用や電力網の未整備といった課題も依然として存在する。
分析と背景
Eコマースとフィンテックは、若年層の消費行動を背景に急成長している。
• 地方市場への浸透:
ShopeeやLazadaなどの大手プラットフォームが地方市場をターゲットにしたキャンペーンを実施。インターネット普及率の向上が
利用者数を押し上げている。
• キャッシュレス化の進展:
VNPayやMoMoなどのモバイルウォレットが急速に普及。2023年にはキャッシュレス決済が取引全体の15%以上を占めるに至った。
• 海外投資の増加:
フィンテック分野ではシンガポールや中国からの資本流入が加速し、新規サービスや技術導入が進んでいる。
競争環境は激化しており、差別化戦略が重要なテーマとなっている。
これらの産業はベトナムの経済成長を牽引する重要な柱であり、政府政策や国際投資の影響が非常に大きい。特に、ICTとハイテク製造業は外需に依存しながらも、国内市場の成長と連動している。一方で、再生可能エネルギーやEコマースとフィンテックは国内需要主導型の成長が続く見込みだ。
今後、ベトナムがこれらの分野で持続可能な成長を達成するためには、インフラ投資の加速や人材育成、規制環境の整備が欠かせない。