オーディンコラム
世界の政治・経済を揺るがす新秩序の再編か
先進国家連盟と新興経済国家連盟の拮抗分析-ODINマーケティング&コンサルティング
BRICSサミット9か国
2024年10月22日から24日まで、ロシア・カザンにおいて、新たに拡大したBRICS加盟国による初の首脳会議が開催された。この会議には、今年1月に正式加盟したサウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピアが初めて参加した。これにより、BRICSはメンバー数が5カ国から10カ国に増加し、多国間主義と公平な発展、そして安全保障の強化を掲げるロシアが2024年の議長国を務めている。
2024年10月BRICSのカザンで開催する首脳サミット(写真提供:インドTV9 Bharatvarsh)
今回の会議では中国の習近平国家主席がロシアを訪れ、ロシアと中国の緊密な連携を象徴する場ともなった。特に、ウクライナ情勢を踏まえた中露関係の強化は、アメリカ主導の西側陣営に対抗する意義が高まっている。ブラジル大統領ルラは体調を考慮しオンラインで参加することとなったが、これはBRICSの多様な参加形態の象徴ともいえる。
BRICS拡大により、総人口が32億人に達し、世界人口の約47%を占めるこの経済ブロックは、2023年時点で44兆米ドルのGDPを記録し、国連全体のGDPの41%を占めている。さらに、これらの国々の経済成長と資源保有力を背景に、2040年には新興経済国が世界最大の経済勢力としての地位を確立することが予測される。とりわけ、中国とロシアを中心とした「資本社会主義勢」が、アメリカ主導の西側覇権を凌駕し、新しい国際秩序の形成を先導するだろう。
このシナリオにおいて、BRICSの拡大と経済協力の深化は、資源、製造、技術の多方面での支配的地位を強化し、米国やG7諸国の経済優位を削ぐ動きを加速させる可能性がある。中国、インド、ブラジルといった成長市場がエネルギー資源と人的資源を活かす一方、ロシア、イランはエネルギー供給の中心として、BRICS圏全体の安定した成長を支えることが期待される。
2024年10月BRICSのカザン首脳サミット(写真提供:インドTV9 Bharatvarsh)
中露連携の強い意思表示・中印の国境線紛争、習近平主席とモディ総理による双方撤兵の合意
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G7とBRICSの貿易総額に関する分析
G7とBRICSは、それぞれの総貿易額で世界の約20〜30%に迫る規模を持ち、これにより世界経済への影響力が非常に大きい。だが、両連盟は経済の構造や背景、連携の特性が大きく異なる。
G7は先進国が中心であり、各国が既に強固な経済基盤を持っているため、加盟以前から自由貿易協定や関税免除など、既存の協力関係が多く存在していた。これはG7の結成が経済協力を通じた直接の貿易額増加よりも、政治的な協力体制やグローバルな意思決定の場としての意味合いが強かったことを示唆している。加えてG7各国は経済的に成熟しており、労働市場の飽和や人件費の高さといった課題を抱える一方で、技術開発力や安定した資本市場による強みを持つ。
写真出所:ロータリー香港/2024年5月のG7首脳会議
データ出所:国連経済統計部(UNSD)/ODIN情報蒐集・分析
G7(アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本)の貿易総額は、世界経済の主要指標であり、年ごとにその規模や構成に変動があるものの、各国がもたらす影響力は大きい。以下、G7の貿易規模に関する分析をまとめる。
1.G7全体の貿易総額(輸出入合計)
G7全体の年間貿易総額は概ね10〜15兆ドルと推計され、これは世界の貿易総額の約30〜40%を占める規模に相当する。特にアメリカ、ドイツ、日本は大規模な貿易国であり、先進経済圏としての安定性と豊富な資源を背景に、世界経済を支える一角を担っている。
2.各国の貿易総額(概算)
- アメリカ:年間で約4〜5兆ドルの貿易総額を誇り、G7の中でも圧倒的な規模。消費財や工業品の輸出入が中心となっている。
- 日本:約7兆ドルの貿易額で、精密機器や自動車、工業品を中心に展開。
- ドイツ:約5〜3兆ドルに達し、特に機械工業製品の輸出に強みを持つ。
- フランス:約1〜1.3兆ドルで、主に工業製品や農産物、航空関連製品が輸出の主力。
- イギリス:約1兆ドル規模で、金融サービスと工業製品が貿易の中心。
- イタリア:約1兆ドルで、特にファッション、食品、工業製品の輸出が主力。
- カナダ:約9,000億ドルで、資源輸出に強みがあり、エネルギーや鉱物の輸出が目立つ。
3.G7諸国の主要輸出入品目
G7は、各国の特色に応じた多様な輸出入品目を持つ。輸出品は主に工業製品、ハイテク製品、エネルギー、農産物であり、特に機械、車両、精密機器などが強みだ。輸入品には、石油や天然ガスといったエネルギー資源、消費財、工業部品などが含まれ、工業基盤を維持するための原材料が多い。
4.世界貿易への影響力
G7は貿易政策や国際協定において強力な影響力を持ち、WTOやFTAなどの貿易ルール形成に主導的な役割を果たしている。各国の貿易総額データは、世界銀行やIMFの最新統計により追跡可能であり、G7の貿易動向は他の経済圏にも影響を与える重要な指標となっている。
世界経済の主要プレーヤーであるG7は、貿易や資源、技術の分野で国際的に優位性を維持し続け、各国との協力体制を強化しつつも、新興経済圏との競争も激化している。G7の貿易総額は、世界経済の行方を左右する要素として注目されている。
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BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、世界経済においてかなりのシェアを占める新興経済連合であり、その貿易総額は年々増加傾向にある。最新のデータによれば、BRICS全体の貿易総額は約9〜10兆ドル規模で、これは世界全体の貿易額の約20%に達する。このデータをもとに、BRICS各国の貿易総額について分析する。
1.BRICS全体の貿易総額(輸出入合計)
BRICS全体の年間貿易総額は約9〜10兆ドルにのぼり、その大部分を中国とインドが占めている。特に中国はBRICSにおける主要な貿易推進力となっており、今後も全体の成長を牽引することが予測される。
2.各国の貿易総額(概算)
- 中国:BRICS最大の貿易国であり、年間貿易総額は6兆ドルを超える。これはBRICS全体の約60%に相当し、輸出入ともにアジア・アフリカ・欧州諸国への依存が高い。
- インド:年間貿易総額は約2〜1.5兆ドルで、成長著しい新興市場として拡大が続いている。
- ロシア:年間貿易総額は8,000億〜1兆ドルで、特にエネルギー関連の輸出が経済の中心を担う。
- ブラジル:年間貿易総額は約5,000〜6,000億ドル。主に大豆や鉄鉱石、食肉といった農産物や資源の輸出が中心。
- 南アフリカ:年間貿易総額は約2,000億ドルで、鉱物(特に金やプラチナ)が輸出の主力となっている。
3.主な輸出入品目
- 中国:工業製品やハイテク製品が中心で、製造業全般に強みを持つ。輸出先としてアジア、アフリカ、欧州各国が主要市場となる。
- インド:ITサービス、医薬品、繊維製品、工業製品、農産物が主要輸出品。IT分野や製造業の成長が貿易拡大に貢献している。
- ロシア:石油、天然ガス、鉱物資源が輸出の柱で、特に欧州向けのエネルギー輸出が貿易総額に寄与。
- ブラジル:大豆や鉄鉱石、食肉、コーヒーといった農産物・資源の輸出が中心。資源国としての役割が際立つ。
- 南アフリカ:金やプラチナを含む鉱物資源が輸出の要で、産業製品も一部輸出している。
4.世界貿易における影響力
BRICSは、経済成長と貿易多様化を促進するため、各国間の協力を強化している。米ドル以外の通貨での貿易決済や、新たな貿易ルートの開拓を進めることで、従来の貿易システムに対抗し、より柔軟な経済体制を目指しているのが特徴だ。
また、BRICSは国際貿易機関(WTO)や地域経済フォーラムにおいて影響力を強めており、新興国や発展途上国への経済支援や貿易促進を主導している。BRICSの経済成長とともに貿易総額も増加傾向にあり、特に中国とインドは今後も世界経済における重要な役割を担い続けるだろう。
以下は、G7とBRICSのポテンシャル及びステータス分析-ODIN M&C分析
G7とBRICSのポテンシャル及びステータスに関する優劣勢分析
G7とBRICSは、それぞれの総貿易額で世界の約20〜30%に迫る規模を持ち、これにより世界経済への影響力が非常に大きい。だが、両連盟は経済の構造や背景、連携の特性が大きく異なる。
G7は先進国が中心であり、各国が既に強固な経済基盤を持っているため、加盟以前から自由貿易協定や関税免除など、既存の協力関係が多く存在していた。これはG7の結成が経済協力を通じた直接の貿易額増加よりも、政治的な協力体制やグローバルな意思決定の場としての意味合いが強かったことを示唆している。加えてG7各国は経済的に成熟しており、労働市場の飽和や人件費の高さといった課題を抱える一方で、技術開発力や安定した資本市場による強みを持つ。
対照的に、BRICSは主に新興経済国で構成されており、資源の豊富さ、低コストの労働力、インフラ建設プロジェクトの潜在成長力などにより、今後の市場成長のポテンシャルが大きい。中国とインドの巨大な市場は、経済成長率がG7に比べて高く、世界経済におけるBRICSの重要性が増しつつあることを示している。BRICS諸国の連携は、特に貿易や資源、経済の多様化に焦点が当てられており、これまで軍事や経済的に対立していた国同士(例:インドと中国)を含む連携というユニークな構造を持つ。
さらに、2024年にはBRICSへの加盟意欲を示す30カ国が控えており、この拡大が実現すれば、G7を超える経済圏が形成される可能性が高い。これにより、BRICSはG7に対抗する経済勢力として、世界経済において一層の影響力を発揮するだろう。
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直近3年のG7・BRICSの貿易総額推移比較表
・G7 貿易総額:2021年の12兆ドルから2023年の13.5兆ドルに増加しているが、成長幅は緩やかである。
・BRICS 貿易総額:2021年の8.5兆ドルから2023年の9.5兆ドルに増加し、成長率はG7をわずかに上回る。
分析
- G7の成長の特徴
G7の貿易総額は、安定した水準を維持しているものの、経済成長率の伸びは2021年以降、徐々に鈍化している。これは、G7諸国がすでに成熟した経済を持ち、成長余地が限られているためだ。また、G7は主要な経済的連携体としてのみならず、政治的な連携体としても機能しており、特に中ロの台頭に対して西側諸国の結束と抑制を目的とする側面が強い。経済的な発展に対する貢献度は依然大きいものの、政治的な意義が増していることは、特に地政学的な動きからも明白である。
- BRICSの成長の特徴
一方で、BRICSの成長率はG7を上回っており、これはBRICS内の中国、インド、そして資源豊富なブラジルやロシアが新興経済国としての成長を続けていることが要因である。BRICSは経済発展における成長余地が大きく、貿易総額の増加も続いている。特にインフラやエネルギー開発プロジェクトを通じ、各国間の経済的な相互依存が高まっている。 - 世界経済発展への貢献度の比較
BRICSの方が経済成長率の面で貢献度が大きく、G7の貿易総額に近づく勢いを持っている。しかし、G7は安定した成熟経済圏として、依然として重要な役割を担っている。今後もBRICSはその成長を背景に、世界経済発展の主要な推進力となる可能性が高い。 - G7の政治的側面の影響
G7は中ロの経済力と国際的な影響力を牽制する政治的意義を強めている。特にエネルギー問題や貿易政策において、ロシアの資源供給力、中国の製造業・経済力に対抗するための西側結束が見られる。このため、G7の存在は政治的安定と安全保障の意義が強まりつつあり、経済的な成長率はBRICSに比べると低いが、国際社会における規範やルール作りへの影響力は依然として大きい。
このように、G7は成熟した経済圏としての安定性と政治的意義、BRICSは成長著しい新興経済圏としての世界経済発展への寄与という、異なる側面で世界経済に対する影響力を持つ構造が顕著である。
G7とBRICSの直近3年間の経済成長率趨勢-ODIN分析
・G7 平均成長率:2021年に新型コロナウイルスの影響から回復して5.0%と一時的に高成長を見せたが、2022年から2023年にかけては成長が鈍化している。
・BRICS 平均成長率:全体的にG7を上回る成長を維持しており、特にインドや中国が牽引している。
G7とBRICSの2030年までの貿易総額の比較予測
前提条件
- G7:既存加盟国による貿易額は年平均約1〜2%の成長とし、先進国の成長が緩やかなことを反映している。
- BRICS:2025年までに新たに10か国が加盟し、年平均3〜5%の成長率で推移すると仮定。特にインフラ・資源開発や加盟国間の経済連携強化が貿易総額の伸びを促進すると想定。
分析
- G7の成長動向 G7は2024年から2030年の間でほぼ安定的な成長を示し、貿易総額は2024年の約5兆ドルから2030年には約15.2兆ドルに達すると予測される。G7諸国は既に高度に発展した経済圏を持ち、加盟国間の既存の貿易協定や経済連携により、年間成長率はわずか1〜2%に留まるとみられる。技術革新やデジタル化の進展が主な成長要因となる一方で、新規加盟国の見込みが少ないため、急激な増加は見込めない。
- BRICSの成長動向 BRICSは新規10か国が2025年に加盟すると仮定し、2025年以降は急速な貿易総額の拡大が期待される。新規加盟国には中東(サウジアラビア、UAE)、南米(アルゼンチン)、アフリカ諸国が含まれる可能性があり、各国が持つ資源や市場がBRICSの貿易額拡大に大きく寄与する。2025年の約13兆ドルから2030年には約5兆ドルに達し、G7の貿易総額を超える見込みが高まる。
- BRICS加盟拡大による成長要因
- 資源の多様化:特にエネルギー資源に富む中東諸国の加盟が、エネルギー取引の拡大と域内供給の強化を促進する。これにより、BRICSはエネルギー市場における大規模な供給者としての役割が増す。
- 貿易ルートと物流の強化:アフリカや中東からの加盟国は一帯一路構想といったインフラ整備プロジェクトに参画することが見込まれ、BRICS加盟国間での物流コスト削減と効率化が進む。
- 経済の多角化:新興経済国の加入により、製造業や農業、サービス業といった多様な産業分野での貿易が活性化される。これが域内の経済循環を強化し、経済成長を押し上げる要因となる。
- G7とBRICSの世界経済への影響 2030年には、BRICSの貿易総額はG7を上回る見通しであり、特にアジア・アフリカ・南米にまたがる成長経済圏としての影響力が一層強まる。G7は依然として高度な技術や資本市場を基盤とする経済圏であり、国際規範や貿易ルールの策定では主導的な立場を維持するだろう。しかし、BRICSの成長は、こうしたG7主導の国際システムに対する挑戦を意味し、多極化した経済ブロックの形成が進行する可能性が高い。
- 国際的な政治的意義の変化 G7は西側諸国の政治的結束を示し、中ロの台頭を抑制する目的がますます顕著になっている。特に、エネルギーや貿易における対中ロ政策が焦点となっており、G7は経済成長よりも政治的影響力の維持を目指す傾向が強まるだろう。一方で、BRICSは経済連携を強化し、加盟国の拡大を通じてG7に対抗する経済ブロックとしての位置付けを確立しつつあり、経済と政治が混在した連携が進むと予測される。
所見
BRICS拡大により形成される新たな国際経済ブロックは、G7に対し圧倒的な人口規模と成長力を有する。これらの新興経済国がまだ経済発展の初中期にあり、発展のピークを迎えたG7先進国と異なる成長ポテンシャルを持つ点は重要である。G7が依然として優位を保ち続けようとする試みは、成長限界を超えたものであり、永続的な世界の支配は実質的に不可能と言えよう。この新たな秩序形成は、物質的・倫理的な必然でもあると考えられる。