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オーディンコラム

2024.03.01

台湾と中国の政治・軍事衝突の実状と台湾経済への影響

1949年から2024年までの台湾・中国関係

文献出処:経済部/関務署/行政院海峡両岸基金会92共識報告/ODIN分析

 

1905年7月、清帝国の腐敗による西側列強に蝕まれる中国を皇帝による中央集権制への打倒を志し、当代中国有識者・軍閥・知識青年らが革命を案じた。日本黒竜会の指導者であった内田良平により孫文が東京に赴き、中国同盟会の設立準備に着手した。8月20日、頭山満が提供した赤坂区の民家の2階で興中会(孫文・胡漢民・汪兆銘など)、光復会(陶成章・章炳麟・蔡元培・秋瑾など)、華興会(黄興・宋教仁・陳天華)などが合併して中国革命同盟会を正式に設立。

 

武昌起義(中国全土で蹶起する革命運動)に孫文が率いる革命軍で11回に及ぶ革命戦争起こし、最終的に清王朝の宣統皇帝の退位宣告で約2500年に亙る集権帝王制度が幕を閉じた。

1911年に孫文が率いる湖北軍政府が立ち上げられ、翌年には南京府でアジア最初の民主共和制である中華民国が建国されたのである。

 

周知の通り、中華民国の成立から1925年の全国統一まで、中国では動乱の12年間を耐え凌いだのだ。その後の中国共産党の蹶起、抗日戦争、国共戦争を経って、やがて中国国民党が主導する中華民国政府は全面敗退し、1945年の終戦と共に中華民国政府が台湾へと遷都した。

 

1949年中華人民共和国が正式に建国、当時まだ国連創設国である中華民国常任理事国が唯一の中国政府の代表として、中国共産党と台湾海峡を隔たり継続的に軍事対峙・政治拮抗。

 

1971年国連では中国共産党への承認傾向が会員諸国で蔓延し、イギリスはじめ、アルバニア、日本、フランス、アルジェリアの23か国の間で僅かな台湾諸島しか所領していない小国が常任理事国の絶対権力持つ事に不平を訴え、加え中国共産党の各国への斡旋と交渉の結果、やがて蒋介石が領導する中華民国の国連からの追放を国連議会2758号決議案で決行とされ、中華民国(台湾)は国際社会から黙然と退場に強いられたのだ。

 

国際社会の中国共産党擁護の逆流の中で中華民国の常任理事国の座に中国共産党が就いた。

 

中華民国が国際社会に孤立されながらも尚堅実な軍事力で台湾本島、澎湖諸島、金門・馬祖諸島、フィリピン海北部諸島(南沙、東沙群島)を1970年まで共産党の進攻から、アメリカの両面政策の中軍事援助を受けつつ、固持に成功。

70年代までに続いた両岸八ニ三砲撃戦の停戦後、台湾と中国共産党が次第に戦争から講和路線へと時勢が変遷し、1992年李登輝総統時代の香港で行われた国民党・共産党とで文化・交通・経済の交流協議会(92コンセンサス)で双方の『一つの中国』について両岸の何れかが合法的代表政府の議題も持ち上げられたが、双方とも中国の正統な『政府』であると持論繰り返した挙句、双方が納得する正式な合意はないものの、主題である経済・文化・交通以外の『政治問題・中国に対する主権』については、互いに中国の唯一政府と認めない反面、『自側こそ中国政府の代表』という各自解釈で『一つの中国』コンセプトの下、互いに占領地統治権を認めるが、中国主権(憲法上の主権)について認めない代わりに、敢えて触れない事で暗黙の了解でやり過ごすという『公言しない認識』で2016年までに至った。

 

2016年の現与党の民進党蔡英文が総統当選による、3回目の政権交代を果たしたが、馬英九時代まで続く両岸の暗黙の了解である『92コンセンサス』に基づいて締結してきた両岸経済協力枠組協議(ECFA/2010年に民進党が裏で発起する公民反対運動(太陽花運動)の的であった)による、2015年時点の対中国貿易黒字約230億米ドルに達し、当時台湾の総輸出額(1,659億米ドル)の約40%占めで、蔡英文政権2016年発足後の翌年に対中国貿易黒字は約232億米ドルと馬英九の対中貿易路線を引き継いだ。

蔡英文・民進党政権は政治的に反中路線と主張するも、2010年に馬英九が推進するECFA(両岸経済協力枠組協議)には絶対反対という過去の立場から観ると、蔡英文政権が発足後の翌年2017年に対中国の貿易輸出額は1,304億ドル(当時レート約16兆円相当)と94%倍増し、2021年の中国コロナの再発で一時期輸出衰退と呈したも、2021年を除き、2019年~2023年の年平均対中国輸出額は何れも1,900億ドル台と年間平均20%強増加している事が判った。

元データ:経済部/ODIN分析・統計

 

また、2023年の台湾全体貿易輸出額は4,324億ドルのうち1,993億ドルが対中国輸出額で、

約全体の46%と大きく占め、且つECFA協定内の貿易対象項目539種類の製品の関税免除を享受しており、中国以外の日本・アメリカ・オーストラリア等の41か国とは限定期間中のみ限定対象カテゴリ(半製品・原料・再輸出品・2次加工品のみ)に限る一部関税減免という、中国以外の無国交国家との正式な経済協定も無ければ、アセアン包括的経済連携協定、CPTPP環太平洋パートナーシップ、IPEFというアジア含む重要な地域経済連携協定の何れも加入していない苦境に陥っている。

元データ:経済部/ODIN分析・統計

 

2024年1月の行われた台湾総統選挙で、与党民進党の副総統頼清徳氏が約4割強の得票率で当選し、当選宣言では蔡英文政権の全体路線を踏襲の上、経済・防衛・外交・エネルギーの強化と両岸の平和と現状の維持を表明する事から、過去8年間の蔡英文政権を大枠引き継ぐ形で国政を推進すると推察。

しかし、2024年2月に台湾の離島である福建省の金門制限海域で台湾の海上防衛隊(海巡署)と台湾海域に侵入した中国漁船との事故で2人が死亡するというこのナイーブな時期にアクシデントが発生。

この事故で中国側から死亡者に対する弁償と事故発生原因の究明並びに責任者の法的処置を講じると強く台湾当局に要求する一方で、台湾当局からも事故発生時の海上防衛隊勤務執行時の映像レコーダーの提出に躊躇な姿勢を見せ、中国世論と中国当局からの不満を買った。事故後に中国側の海上警察艦艇(8,000トン級/海軍戦艦改造)、戦闘ヘリなど軍事的な圧力を台湾に圧し掛かっている状況である。

過去27年以来両岸関係は正に氷点下にありつつ、武力的対峙も日に日に高まって来ている。

 

中国市場を大きく依存している台湾にとって、92コンセンサスの承諾拒否に続く、軍事的対立の板挟みから、果たしてこのまま事態悪化すれば、ECFAの中断も否めない情勢かと考えられる。

台湾にとって一刻も早く中国貿易依存からの脱出が急務であり、次期総統の頼氏に難題が立ちはだかる。

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